業界トップクラスのデータ復旧率!最新の設備とベテランエンジニアが大切なデータを復旧・復元します。
ヘッド異音により認識しない状態。開封後、スクラッチ障害(磁性体剥離)が確定。
2か月程度
正常なファイルを170GB程度復旧
初期診断として通電してみたところ、カチッカチッという異音が発生しました。
この音が聞こえる場合、プラッター(=HDDのデータを記録する円盤)にダメージが入っている可能性が高いです。
実際にプラッターの状態を確認してみたところ、スクラッチが発生していました…全部の面にです…。全部に…。
今回対応したのはこのHDD。
Sagate製のST2000DM001やST3000DM001は業界では悪名が高いですが、実はそれらに次ぐぐらいこのモデルDT01ACA300もスクラッチ障害や重度物理障害が多い気がします。
開封直後の写真はあまり残っていなかったのですが、本件HDDの内部の様子をいくつかの写真でご紹介します。
かなり黒ずんだフィルターの写真です。
これはプラッターにヘッドが接触してえぐられた時に発生したダストです。
スクラッチの酷さを物語っています。
このHDDは、プラッターが3枚内蔵されており、1枚あたり裏表の2面が使えますから、全部で6つの面があります。
そのうちの一番上の面の状態がトップの画像です。
内側と中央にくっきりと円状の傷=スクラッチがついているのが見えます。
では、他の面はというと…
このような感じでした。
S5, S4, … , S0というのは下から数えて何番目の面であるかを示しています。S5が一番上プラッターの上の面、S0が一番下のプラッターの下の面です。
トップ画像のスクラッチより一層くっきりとしたスクラッチが見えます。
このスクラッチ、1mm以上の幅がありました。
仮にこれらのスクラッチに対する処方がヘッド交換だとしたら、これらの傷によって即座にヘッドが機能しなくなることが想像に難くありません。
また、写真ではうつしきれなかったのですが、細かいスクラッチも面全体にまんべんなく広がっていました。
正直、諦めて復旧不可として診断しようと思いました。おそらく誰もがそう思うはず…。
しかし、「出来ないこともない、やれることはやってみよう」と思い、復旧作業を継続することにしたのです。
さて、まずは基本的なスクラッチ障害の対応と同じくクリーニングを行います。
プラッターの面はスクラッチによるダストで汚染されているためです。
この作業を飛ばしてしまうと、ヘッドに汚れが付着するため、ヘッドがスクラッチ部分に行かずしても機能の劣化が起こってしまいます。
そればかりか、ダストのせいでよりスクラッチ障害を誘発しやすい状態となっているので大変危険です。
通常のスクラッチ障害の対処は、スクラッチのある面を除き、ほかの面からデータ抽出を行うというものです。
しかしながら、本案件ではすべての面にスクラッチがあります。
この方法では何も読めるデータはありません。
とはいえ、ポイントはヘッドがスクラッチ部分の影響を受けないようにすることですので、ヘッドの動きをこちらで制御できればなんとかなる訳です。
そうしてスクラッチを避けながら、HDDのシステムエリア(=ファームウェアが格納されているところ)にアクセスしましたが、ここもダメージの影響がありました。
重要なファームウェアにエラーが発生していました。
エラーがあったのはPSHT(P-List)と呼ばれる部分。P-Listは状態の悪いブロックのリストであり、OS側から見ることのできるHDDの記録領域のマッピングのために必要不可欠なパラメータです。
代えの利かないパラメータで他のHDDのデータを移植するといったことはできません。
※ ご存じの方向けに言うと、ここでの「OS側から見ることのできるHDDの記録領域」のアドレスがLBAというものです。LBAはLogical Block Addressingなので「論理」のアドレスです。ストレージ側のアドレスである絶対アドレスよりひとつ上のレイヤーになります。絶対アドレスを論理アドレスに変換するためのパラメータの一つがP-Listであり、これは出荷前に記録される一つ一つのHDDに固有のデータです。
システムエリアにはバックアップがあり、そこからも同じファームウェアを抽出して相互に比較してエラーブロックを埋めていきますが、それでも修復できない部分が残りました。
しかし、このHDDのモデルのP-Listは似偏った部分が多く、案外修復しやすいので助かります。
ファームウェアを修復したら、データの読みだしスタートです。
…遅い。とにかく遅い。読み出しエラーのために非常に時間がかかりました。
幸い、ファイルのメタデータ(=ファイルデータの実体ではなく、ファイル名やファイルサイズ、作成日時等の情報)を管理している部分は大きな欠損もなくほぼ抽出できたので、容量が3TBあるHDDのどこを読めばよいか、的を絞ることができました。
それでも、データを抽出して待つこと2か月。
この間、読み出しのパラメータを何度も変え、できる限りの量を抽出しました。
最終的には実際にデータがある領域の55%を取得。
データの読みだしを開始する前はもっと取れるだろうと思っていましたが、予想以上に悪かった…。
さらに、ヘッド交換も行ってエラーのクリアを試みるものの、ほぼ残ってしまい、細かいエラーが散在してしまいました。
上記の写真で見える以外にも、目視では細かいスクラッチが見えていました。
これらの細かいスクラッチが想定よりずっと悪く、エラーを多発する要因となったのでしょう。
エラーが全くない無傷のファイルは抽出したデータのうちの半分未満、つまり、元々記録されていたデータの1/5程度。
時間をかけた割には残念ながらあまり良い結果ではなく…。
しかし、なんと受注!!
お客様にとって重要なデータは復旧できていたようです。
欠損があっても開けるファイルがそれなりにあったことも功を奏したのかもしれません。
今回の案件は、かなり手ごわく、時間もかかりましたが、それでもお役に立てたようでなによりです。
きれいな状態で復旧できなければ意味もないと思う人もいらっしゃれば、たとえ欠損があっても復旧できたのは意味があると思う方もいらっしゃることでしょう。
もちろん前者のようにできるのが理想ですが、現実的には難しいことも多々あります。
そういった時に、後者のニーズにも応えられるよう、精一杯、復旧作業に勤しんでおります。
お困りの際は、ぜひスクラッチラボにご相談ください。
余談ですが、このHDD「DT01ACA300」のラベルには「TOSHIBA」と書いてあり、実際に東芝製ですが、ファームウェア等の内部機構は「Hitachi」です。
ROMのデータを読んでみるとHitachiとしっかり書いてあります。
なので、データ復旧屋からすると、日立製として分類するモデルなのです。
さらに余談ですが、これの後継ともいえる「DT02ABA400」や「DT02ABA600」といったモデルは、内部機構も東芝製です。面白いですね。