業界トップクラスのデータ復旧率!最新の設備とベテランエンジニアが大切なデータを復旧・復元します。
本記事でご紹介する復旧事例は、Western Digital製のHDD WD20EZRXです。
ひと昔前に広く出回ったシリーズのモデルで、ファームウェア障害、ヘッド故障、スクラッチ障害(磁性体剥離)など様々な障害のパターンがあります。
「ランプ」と呼ばれる非通電時にヘッドが格納されるプラスチック状の部品とプラッターとが接触して、プラッターの外縁部がプラスチックのダストで汚れ、ヘッドが故障(さらに悪化するとスクラッチが発生)といったパターンもよく目にします。
開封済みであったのでプラッターを確認すると、スクラッチを発見。スクラッチ障害と判定。
納品まで約10日程度
正常なファイルを1.1TB程度復旧(ファイル数は36,000件程度)
破損ファイルが約100GB(ファイル数は200件)発生しましたが、スクラッチが発生していた割にはかなり良い結果となりました。
まずはスクラッチの状態を確認。写真だと写すのが難しいので動画です。
プラッターの外側に傷が入っている状態を確認できますでしょうか?
このHDDはプラッター2枚で構成されており、裏表あわせて全部で4つの面がデータの記録に使用されていますが、そのうちの一番上の面に傷がついていました。
さて、「スクラッチ障害+α」となっていますが、何が「+α」なのかというと、実はROMがオリジナルではなく、全然関係ないHDDのROMデータが書き込まれていました。
そんなことなんてあるのか?と思われるかもしれませんが、複数の復旧業者に行っていたり、ご自身でどうにかしようとしたりするとこういうことはあります。
このHDDは弊社で診断する前にも複数の業者様で診断を受けていたとのことでしたので、知らないうちにROMが入れ替わっていたのかもしれません…。
弊社では基板にも案件番号を記載したマスキングテープを貼付して識別していますが、多くのデータ復旧業者様は基板に「オ」(「オリジナル」の「オ」でしょうか?)としか記載していないことが多いようです。HDDによっては、元々の基板でないと一切復旧ができなくなるHDDも存在するので、悪しき習慣ですね。
少し話がそれてしまいましたが、ROMデータにはHDDを起動するための固有のパラメータが記述されていることが多いため、基本的にはオリジナルのROM無しではデータにアクセスすることはできません。
写真の赤枠に囲まれた8本足のチップがROMで、ここにデータが格納されています。
HDDのファームウェアは2か所に記録されています。
1つ目は基板のROMチップに記録されているファームウェアでこれはスピンアップやヘッドのシーク等の初期動作を担当しています。
2つ目はプラッターの「システムエリア」と呼ばれるところに格納されているファームウェアで、ヘッドがプラッターを正常にシークし、システムエリアにアクセスすることで読み込まれます。システムエリアに記録されているファームウェアには様々なものがありますが、プラッターの物理的な位置とセクターの論理アドレス(LBA)を変換する「トランスレイター」という極めて重要なファームウェアが記録されています。
本件では1つ目のファームウェアを喪失している訳ですが、幸いにもWestern Digital製のHDDはなんとかなる場合があります。
ROMデータには固有のパラメータが含まれており、もちろん、正常起動させるには必須ですが、パラメーターが近しいROMであればオリジナルのROMでなくともシステムエリアにはアクセスできます。そして、システムエリアにはオリジナルのROMにおける固有のデータのバックアップが残存しているので、これを利用することができます。
また、ROMのデータの全てがHDDごとに固有のパラメーターという訳ではないので、ROMを再構築する際の大枠のデータはドナーのものを利用することができます。
つまり、本件で行ったことは、
①スクラッチ障害をバイパスしながら、似たパラメータのROMでシステムエリアにアクセス
②システムエリアのデータにアクセスし、ROMの固有データのバックアップを回収
③ROMの固有データのバックアップから情報を得つつ、ROMの正確なバージョンが記述されたシステムエリアのモジュールを取得
④ROMのバージョンが正確にマッチしたドナーを探す
⑤ドナーのROMデータと②で回収した固有データを使用してROMを再構築
⑥再構築したROMでスクラッチ障害をバイパスしながらデータ抽出
という訳です!!
今回はスクラッチに対応しつつROMの再構築を行ったわけですが、スクラッチが無い場合でもどれくらいの業者様がROMの再構築に対応できるんでしょうか?少し気になります!
次の図の左側が書き込まれていたROMのデータ(の一部)で、右側が再構築したROMのデータです。
大体同じ値が並んでいますが、「Dir」と書いてある部分が異なります。
これが何かと言うと、システムエリアに記録されているファームウェアのインデックス(目次)の場所を示しています。
この値が間違っていたせいで、システムエリアの各モジュールを正しく読めず、HDDを起動できなかったという訳です。
もちろん、ROMの他の部分もパラメータ―は異なっていましたが、ここはクリティカルな値です。
スクラッチ障害はどうだったかというと、非常に状態が悪いというほどではありませんでした。
ROMの問題が無かったとしたら、わざわざスクラッチのために特殊な処置を施さなくともヘッドの交換のみで対応できた可能性もあります。
HDD故障の最初の原因はおそらくスクラッチだと思うのですが、色々なところを巡るうちにROMデータも変わってしまって、複雑な症状のために多くの業者様では対応できないような状態になってしまったのでしょう…。
とはいえ、酷いスクラッチでは無いですが、場所が悪いので、もたもたしているとこの傷が拡大して大惨事になっていた可能性も大いにありますが…。
弊社での作業は、スクラッチのある面を除外してデータ抽出した後、このスクラッチのある面のデータ抽出を実施しました。スクラッチの位置を把握したうえで、スクラッチを避けながらデータを抽出します。最終的には、全体の99.9%のセクターを回収することができました。
幸運にもスクラッチのある面からもほぼデータを抽出できたので、スクラッチがあった割には非常によい復旧結果となりました。
(破損ファイルは発生しましたが、サイズの大きい動画ファイルに細かいエラーが入ったという感じなので、若干ノイズが入るタイミングがあるものの大半は再生できるものでした。)
スクラッチラボはワンランク上の復旧技術を提供しています!!
お困りの際は是非スクラッチラボへご相談ください。