概要

今回の復旧対象は、Seagate製HDD「ST1000DM003」です。
PCに接続しても認識されず、通電時には異音が発生する状態でお預かりしました。

診断の結果、プラッター上に傷が確認されるスクラッチ障害と判定しています。
本記事では、先行納品分として実施した診断・復旧内容と、その時点での復旧結果について解説します。

ご相談時の症状

お預かり時点で確認された主な症状は次の通りです。

• PCに接続してもHDDが認識されない
• 通電時に異音が発生する
• 保存されている特定のデータを優先的に取り戻したい

認識しない状態に加え、異音が発生している場合は、内部で物理的なトラブルが進行している可能性が高く、
無理な通電の継続は状態悪化につながります。

下の写真は、お預かりしたST1000DM003の外観です。
外装だけでは内部の状態は判断できないため、異音がある場合は開封しての点検が必要になります。

内部点検とスクラッチ障害の確認

通電時の異音を確認したため、HDDを開封して内部点検を実施しました。
開封後、データの保持に使用されているプラッター上に傷が確認され、
スクラッチ障害が発生していることが分かりました。

スクラッチ障害は、ヘッドがプラッター表面に接触することで発生する重度の物理障害です。
傷の位置や広がり方によって、読み出し可能な範囲や復旧結果が大きく変わります。

下の画像は、スクラッチ障害の状態を示す参考画像です。

本件では、傷のある面を考慮しながら、読み取り可能な領域に限定して作業を進める必要がありました。

作業内容

1. スクラッチ障害用の処置と起動制御

まず、スクラッチ障害に対する専用の処置を行い、HDDを安定して起動できる状態を確保しました。
傷のある領域を無理に読み取ろうとすると、状態が急激に悪化するため、
起動制御と読み取り制御を慎重に調整しています。

2. 対象ファイルを優先したディスクイメージ取得

HDDが正常起動できる状態になった後、すべての領域を一律に読み取るのではなく、
お客様が必要としている対象ファイルに焦点を当て、
不良セクタをスキップしながらディスクイメージを取得しました。

細かい読み出しエラーが頻発していたため、読み取り速度やリトライ条件を調整し、
状態を保ちながら可能な範囲でデータを確保しています。

下の動画は、内部確認時の様子です。
プラッターの状態を把握することで、読み取り方針を判断します。

3. イメージ解析とファイル復旧

取得したディスクイメージを専用ツールで解析し、
フォルダー構造を含めて可能な限りファイルを復旧しました。

復旧結果

復旧できたファイルの内訳は次の通りです。

正常な復旧が見込まれるファイル（Good）：1,734 files（10.61 GB）
破損ファイル（Bad）：611 files（27.30 GB）
合計：2,345 files（37.91 GB）

本件では細かい読み出しエラーが頻発していたため、
相対的にサイズの大きいファイルはエラーを含み、Badファイルとなる割合が高くなっています。
ただし、各Badファイル内のエラーブロックは1%未満であるケースが大半で、
破損箇所はあるものの、再生・閲覧が可能なファイルも多く含まれています。

技術者コメント

スクラッチ障害が発生しているHDDでは、
「どこを読まないか」「どこを優先して読むか」の判断が復旧結果に直結します。
本件のように、対象ファイルを絞って読み取りを行うことで、
限られた状態の中でも実用的なデータを確保できるケースがあります。

異音が出ている状態で通電を続けると、傷が広がり復旧可能性が下がることがあります。
認識しない・異音がするなどの症状が出た場合は、
早い段階での相談が重要です。

まとめ

本事例は、Seagate ST1000DM003 にスクラッチ障害が発生し、
認識しない状態からのデータ復旧となったケースです。
スクラッチが発生していると一般的には復旧不可とされがちですが、弊社では重要ファイルを中心に可能な限りのデータを復旧しています。
HDDの異音や認識不良でお困りの際は、通電を控えたうえでご相談ください。